弁膜症

弁膜症

心臓は左右に分かれ、それぞれ2つの部屋(左心房、左心室、右心房、右心室)をもっています。それぞれの部屋の出口に弁(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)があります。心臓から送り出される血液の流れをスムーズにするため重要な働きを果たしています。その弁の病気を弁膜症と呼びます。外来でできる心臓超音波検査(心エコー検査)が診断と病気の進行具合の評価に有効です。外科治療とは異なり、弁膜症に対する薬物治療は故障した弁の根本的な治療にはなりません。弁膜症が進行し心臓の筋肉自体が傷んでからの外科手術は術後の心臓機能の回復に問題を残すことがあります。タイミングを見極めて手術を選択することが極めて重要です。

大動脈弁

大動脈弁は左心室の出口で大動脈につながっています。左心室から送り出された血液が、大動脈を流れ、全身に効率よく運ばれるためにあります。大動脈弁のすぐ上流の大動脈には心臓を養う血管である冠動脈が2本分岐しています。正常な大動脈弁の口の面積(弁口面積)は3-4cm2と言われています。100円硬貨の面積は4cm2ぐらいです。弁は3枚の帆(弁尖)でできています。

大動脈弁の弁膜症

大動脈弁狭窄症

大動脈弁が硬く開かず、弁口面積が狭くなり、血液の通過障害を起こしている状態です。胸痛、意識消失、心不全を引き起こし、突然死の原因となります。加齢に伴う動脈硬化として進行します。病気が進行するほど弁口面積が小さくなり、弁口面積が1cm2(小指の太さぐらい)以下で重症となります。大動脈弁の狭窄は進行しても改善することはありません。無症状のうちに進行し、症状がでたときには重症となっています。治療は硬くなった大動脈弁を切り取り、人工弁を新しく植え込む大動脈弁置換術を行います。大動脈弁置換術の成績は非常に良好です。

大動脈弁狭窄症


大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁が完全に閉じず、送り出した血液が心臓に逆戻りしてしまう状態です。心臓の負担が大幅に重くなり心臓の筋肉が傷み、胸痛や心不全を引き起こします。しかし慢性に進行しかなり重症でも無症状であることが多いのも特徴です。しかし症状が出現したときには、心臓はかなりダメージを負っていて、年に1割以上の確率で死亡するといわれています。大動脈弁閉鎖不全症の原因は様々で、原因に応じて最善の治療、手術方法(大動脈弁置換術や弁形成術、大動脈基部置換術など)を選択し行います。

大動脈弁閉鎖不全症


僧帽弁

僧帽弁は左心房の出口で左心室につながり、左心室の入口でもあります。正常な僧帽弁の弁口面積は4-6cm2と言われています。弁は2枚の弁尖と弁尖を張っている複数本の糸(腱索)でできています。

僧帽弁の弁膜症

僧帽弁狭窄症

ほとんどの場合、小児期のリウマチ熱が原因と考えられます。リウマチ熱の治療が行われている現在、僧帽弁狭窄症は減少しています。2枚の弁尖が癒合し張り付いてしまうため開かなくなります。弁口面積が1.5cm2以下に進行すると動悸や息切れ、疲れやすいなどの症状が出現するといわれています。治療はカテーテルによる手術や僧帽弁を人工弁に換える僧帽弁置換術を行います。

僧帽弁狭窄症


僧帽弁閉鎖不全症

高齢化に伴い増加しています。原因は様々ですが、腱索が切れるまたは伸びてしまい、弁の閉鎖がうまくいかなくなる退行性病変(粘液変性)が多いです。左心室から血液が左心房や肺に逆流してしまうので、肺水腫、肺高血圧症、心房細動となったりします。息切れなどの心不全症状がでるころには心臓の機能障害は進行しています。利尿剤などの内服薬で一旦は症状が改善しますが、根本原因である弁の逆流は改善できず、心臓機能の障害は進行し、長期的には有効な治療とは言えません。弁の逆流を直す治療が外科治療です。手術方法は自分の弁を修復する僧帽弁形成術と人工弁に置き換える僧帽弁置換術があります。大動脈弁とは違って、弁形成術は長期的な成績でも弁置換術より優っています。当院でも僧帽弁形成術を第一に行っています。しかし僧帽弁閉鎖不全症の1割弱の患者さんで僧帽弁形成術に向かない(形成術を行うことはできますが、手術後にも逆流が残ってしまう)ことがあります。

僧帽弁閉鎖不全症


三尖弁

三尖弁は全身から戻ってきた静脈血を右心房から右心室に導き入れる弁です。弁は3つの弁尖でできています。

三尖弁閉鎖不全症

僧帽弁の弁膜症が原因で肺血流量が増え三尖弁の負担が増加し閉鎖不全症となります。三尖弁の閉鎖不全症によって静脈の流れが悪くなり、下肢や顔面の浮腫が現れます。利尿剤が効果的ですが、他の弁膜症手術時に、中等度以上の三尖弁閉鎖不全症がある場合には同時に手術を行います。手術は弁置換術を必要とすることは少なく、弁形成術を行います。

人工弁輪

弁形成術の際に、弁の外枠(弁輪)に縫い付けて使用します。

人工弁

人工弁には機械弁と生体弁の2種類があります。
【機械弁】
 カーボン製で優れた耐久性がありますが、ワーファリンを生涯にわたり内服しなければなりません。
【生体弁】
 ウシやブタの生体組織の一部から作られ、ワーファリンの内服は術後3~6か月のみです。劣化があり、耐久性は機械弁の方が優れています。

人工弁