乳がん

乳がん

l. 乳がんとは?

乳癌にかかる人は年々増加しており、現在女性では最も多い癌となっており、毎年約3万人の女性が乳癌にかかります。
成人女性の乳房は、ぶどうの房のようにひろがった小葉が乳管につながり約15~20本の乳管が乳頭に集まっています。乳癌の多くは乳管から発生する乳管癌及び、小葉から発生する小葉癌であり、少ないですがこの他には特殊なタイプの乳癌があります。
乳癌の診療で大事なことは、早期に発見して手術を含めた適切な治療を行うことです。早期発見のためには乳がん検診や自己検診を定期的に行うことが効果的です。横須賀市の乳がん検診では2 年に一回のマンモグラフィ検診も実施しており、しこりがない状態の転移を起こさない非常に早期の癌(非浸潤癌といいます)も見つかるようになってきています。自己検診の方法については当院の乳腺外来にパンフレットを用意し希望のある方には指導を行っています。治療については後述致します。

ll. 症状

1)乳房のしこり
乳癌の症状として最も多いのはしこりです。一般的には表面がごつごつして硬いしこりは乳癌を強く疑います。しかし、表面の平滑な丸い場合や境界の不明瞭な場合でも乳癌であることがありますので心配であれば乳腺外来を受診しましょう。

2) えくぼなどの皮膚の変化
乳癌が周囲の組織に浸潤し引き込まれると皮膚にえくぼのようなくぼみができたり、皮膚近くにあると皮膚が赤く腫れたり、進行すると潰瘍ができたりします。また、パジェット病という特殊な乳癌では乳頭のただれが起こります。

3)乳房の痛み
一般に「乳癌は痛くない」と言われることが多いのですが、実際には乳房痛や違和感で発見されるケースも少なくありません。

4) 乳頭分泌
乳頭から黄色の分泌物がある場合の多くは乳腺症や乳管内乳頭腫などの良性疾患のケースが多いですが、茶色だったり血液が混じっている場合には乳癌の可能性も考えられ注意が必要です。

5) 腋の下のリンパ節の腫れ
乳癌は乳房に近い腋の下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移しやすく、乳房のしこりがはっきりしないのに腋窩リンパ節の腫れが初発症状で発見される場合もあります。

lll. 診断

なんらかの症状があり乳腺外来を受診されると、まずは視診、触診によりしこりの有無をチェックします。必要に応じてマンモグラフィや超音波検査を施行します。マンモグラフィではしこりや乳癌によって起こる微細な石灰化やの有無などを調べます。乳腺の中に隠れた小さなしこりなどを見つけるには超音波検査が適しています。

しこりが見つかった場合には、細い注射針を刺して細胞を吸引して調べる「穿刺吸引細胞診」や太い針を刺して組織を採取する「針生検」で診断をつけます。マンモグラフィだけで異常がある場合にはマンモトーム生検という針生検を行い診断をつけます。
もし乳癌の診断がついたならば、乳房内の乳癌の広がりを調べるMRI検査や、転移の有無を調べる胸部レントゲン撮影、CT検査などを適宜行い、乳癌の進行度(病期、ステージ)を判断し治療方針をたてます。

lV. 病期

乳癌は乳房のしこりの大きさ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって大きく5段階の病期(Stage 0~IV)に分類され、この病期が進んでいる程再発リスクが高くなり、病期に応じた治療が必要です。

Stage 0
乳癌が発生した乳管、小葉の中にとどまっており周囲の脂肪や皮膚に浸潤を認めず、転移の可能性のない非常に早期の乳癌(非浸潤癌)です。

Stage I
しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節転移や遠隔転移していない乳癌。いわゆる早期乳癌です。

Stage IIa
しこりの大きさが2cm以下で、腋窩リンパ節転移があり、遠隔転移がない場合、もしくは、しこりの大きさが2cm以上で、リンパ節転移や遠隔転移していない場合。
しこりの大きさが2~5cmで、腋窩リンパ節転移があり、遠隔転移がない場合。

Stage IIIa
しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと癒着していたり周辺の組織に固定している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節(内胸リンパ節)がはれている場合。あるいはしこりの大きさが5cm以上でわきの下あるいは胸骨の内側のリンパ節への転移がある場合。

Stage IIIb
しこりの大きさやわきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁にがっちりと固定しているか、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態です。炎症性乳がんもこの病期に含まれます。

Stage IIIc
しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。

Stage VI
遠隔臓器に転移している場合。骨、肺、肝臓、脳などに転移を起こします。

V. 治療

乳癌の治療には大きく分けて手術、放射線療法といった局所療法と、ホルモン療法、抗がん剤による化学療法といった全身療法があり、これらを組み合わせて治癒を目指します。全身療法については、日本乳癌学会の薬物療法ガイドライン、St. Gallenのコンセンサスミーティングや米国のNCCNガイドラインなどを参考にして治療計画を立てていきます。

1) 手術乳癌局所を可能な限り残さず切除します。乳房のしこりが小さく限局している場合にはしこりから2cm程安全域をつけて乳房部分切除(いわゆる乳房温存手術です)が可能ですが、しこりが大きかったり、乳房内に広くひろがっている場合には乳房を全部切除します。胸筋に浸潤している場合には胸筋も一緒に切除する場合もあります。標準的には手術の際に腋窩リンパ節を含む腋窩脂肪組織も併せて切除します(腋窩リンパ節郭清といいます)。しかし、腋窩リンパ節郭清の合併症として腕のむくみ、しびれ、運動障害が現れることがあり、術前にリンパ節転移がないと考えられる場合にはセンチネルリンパ節生検という方法でリンパ節の拾い出しを行い、転移がなければリンパ節郭清を省略することも可能です。

2) 放射線療法乳房温存手術を受けた場合には基本的には残った乳房に局所再発する可能性があり、そのリスクを減らすために乳房に放射線照射を行います。照射により局所再発のリスクは約1/3になることが知られています。また、骨の痛みなど転移した病巣による症状を緩和するために行われる場合もあります。

3) ホルモン療法切除した乳癌組織を調べると約2/3 の乳癌はホルモン受容体を有しており、ホルモン受容体陽性乳癌は女性ホルモン(エストロゲン)の刺激により増殖するため、女性ホルモンを抑制する治療が有効です。ホルモン療法剤には、抗エストロジェン剤、アロマターゼ阻害剤、LHRHアゴニスト、プロゲステロン製剤などがあり、乳癌の進行度や閉経状況により使い分けていきます。

4) 化学療法術後再発リスクが高い場合には術後に再発予防のために、また、術後再発した場合には再発治療のために抗がん剤による化学療法を行うことがあります。最近では術後に化学療法が必要であることが明らかな場合や、しこりが大きくて乳房温存術が困難だけど温存手術を強く希望する場合などには手術前に化学療法を行うケースもあります。乳癌に対して使用する抗がん剤には多数の注射薬や内服薬があり、状況により使い分けます。白血球、血小板の減少、吐き気、下痢や食欲低下、脱毛、手足のしびれ、肝機能障害などの副作用があらわれますが、ほとんどの場合は入院の必要はなく外来にて安全に行うことが可能です。当院では外科外来の向かいに外来化学療法室があり、そちらで治療を行っています。

VI. 治療成績(当院の成績)

当院の治療成績は表の通りです。(StageIIICについては症例が少なく、観察期間も短いため生存率は出ていません。StageIVについては4年生存率を表示しています。)

当院の治療成績