甲状腺がん|頭頸部腫瘍(がん)

 

甲状腺がんの治療

概 説

手術による腫瘍摘出が治療の第一選択です。悪性腫瘍の場合には頸部郭清術を同時に行うこともあります。

甲状腺とは

喉仏(甲状軟骨)と胸骨との間で、気管を取り巻くようにある臓器を甲状腺といいます。甲状腺にできたがんを甲状腺がんといいます。
甲状腺がんはその組織型で4つに分類されています。乳頭がんが最も多く、約85%を占めます。
甲状腺がんは、比較的進行が遅く予後も良好と一般に知られていますが、それは大半を占める乳頭がんをさします。
未分化がんや低分化がんは、極めて進行が速くまた治療に抵抗するため、場合によっては発見された時点で3ヶ月の命ということもあります。

症 状

時に前頸部腫瘤を触知することがありますが、初期には症状はほとんどありません。
咽喉頭異常感症のため精査を進めた時に偶然発見されることがあります。
甲状腺の皮膜外に進展すると、周辺に異常をきたします。たとえば反回神経に浸潤して嗄声を引き起こしたりします。

診 断

もっとも良いのが、頸部エコーです。甲状腺の原発巣だけでなく、頸部の転移リンパ節の有無も同時に観察できます。
エコーガイド下に穿刺細胞診(FNA)を行って、組織型を推定することもできます。
CTやMRIは、腫瘍の拡がりを見るにはよい検査です。
Tlシンチグラムは、遠隔転移の検索には有効です。血液中の、甲状腺ホルモン値、サイログロブリンは術後の経過観察に参考としますので術前に一度はチェックします。

病 期

原発巣の進行度は'T'で示し、下記のように定義されています。
多くは手術後に確定します。その結果に基づき、追加治療する場合もあります。

T1 甲状腺に限局し最大径が1cm以下
T2 甲状腺に限局し最大径が1cmをこえるが4cm以下
T3 甲状腺に限局し最大径が4cmをこえる
T4 甲状腺の被膜をこえて進展するもの

治 療

症例の大半を占める乳頭がんや濾胞がんは、第一に手術です。
一方、未分化がんは、手術を中心として放射線治療や化学療法を組み合わせた治療が計画されますが、進行が速いため現実には治療をすることさえ困難な場合もあります。
ここでは、乳頭がんの治療(手術)を示します。

  • 頸部リンパ節転移を伴わない場合、がんのある側の一葉と峡部を切除し、同時に患側の気管周囲のリンパ節郭清を行います。
  • 頸部リンパ節転移を伴った場合は、転移側の保存的頸部郭清術を追加します。
  • がんが両側にまたがる場合、甲状腺全摘出術や、両側頸部郭清術を行うこともあります。
  • 肺転移などの遠隔転移をきたしている場合、術後の放射線ヨード治療を要する場合があり、この際は甲状腺全摘出術が必要です。

治療による副作用

甲状腺を摘出する場合問題となるのは、反回神経です。反回神経は、声帯運動に関わる神経です。
一側の麻痺では気息性嗄声(息漏れの声がれ)をきたし、両側の麻痺では呼吸困難をきたします。
甲状腺乳頭がんは、適切な治療を行えば比較的予後のよいがんです。従って、がんが反回神経を巻き込んでいない限り温存につとめます。
しかし、甲状腺がんでは気管周囲のリンパ節郭清をきっちりしておく必要がありますので、甲状腺全摘出術を行った場合は、反回神経を温存できても一時的な麻痺をきたす可能性がありますので気管切開を必要とする場合があります。
仮に、一側反回神経の永久麻痺をきたしても、手術により、多少の声の改善が期待できます。これも当科では積極的に行っている手術です。
両側反回神経麻痺をきたし、気管切開孔が閉鎖できない場合でも、声帯外方移動術により気管孔を閉鎖することが可能となる場合もあります。