喉頭がん|頭頸部腫瘍(がん)

 

喉頭がんの治療

概 説

喉頭はいわゆる「のどぼとけ」(甲状軟骨)に位置しており、内面が粘膜でおおわれた箱のようなものです。
喉頭の内腔は上前方は舌根(ぜっこん:舌のつけ根)につながり、上から喉頭蓋、仮声帯、室、声帯、声門下腔に分けられ、下方は気管から肺へ続いています。
声帯は左右一対で「のどぼとけ」のやや下に位置しています。声帯のある部分は声門と呼ばれ、それより上を声門上、下を声門下と呼んでいます。
喉頭の背側(後方)には下咽頭と呼ばれる部位があり、こちらは食道へ続いています。
喉頭は、左右の声帯の閉鎖と肺からの呼気により声帯を振動させる発声機能の他に、喉頭全体の機能として空気の通り道(気道)の確保と、食物の気管内への流入の防御(誤嚥防止:ごえんぼうし)の機能を有しています。喉頭がんが進行するとこれらの喉頭の機能障害を引きおこします。

喉頭がんは、年齢では60歳以上に発病のピークがあり、発生率は人口10万人に対し3人程度です。男女比は10:1で男性に圧倒的に多いという特徴があります。
喉頭がんの主な危険因子は、たばこと酒です。喉頭がんにかかった方の喫煙率は97~8%です。たばこを習慣的に吸い始めて発がんするまで約40年といわれており、このことが男性の高齢者に多いがんという特徴の原因と考えられています。
これは、非喫煙者では、喉頭がんになる男女の数があまりかわらないことからもわかります。
またアルコールの多飲や口腔不衛生が声門上の喉頭がんの発生に関与するといわれています。これは、中咽頭がんや口腔がんと同様です。
部位では、声門(声帯)に発生するがんが60~65%を占め、声門上は30~35%で、声門下は極めて少なく1~2%です。喉頭の内面は線毛上皮で気管に連続していますが、声帯だけは扁平上皮におおわれています。喉頭がんはほとんど扁平上皮がんですが、たばこ、酒などの継続的刺激が発がんに関与するといわれています。
喉頭がんも他のがんと同様に早期発見が非常に重要です。喉頭がん全体の治癒率は約70%と頭頸部がんの中でも高い治癒率ですが、これは特に声門がんの場合は早期に嗄声という症状で受診される方が多いのに起因しています。
早期に発見すれば音声を失うことなく治癒することが可能です。そのため最近では、喉頭がんの早期発見を目的とした音響分析による検診なども試みられています(横浜市)。

症 状

がんの発生部位により最初の症状は異なります。最も多い声門がんでは、ほぼすべての方に嗄声(させい:声がれ)がみられます。
この嗄声は雑音の入った、ざらざらした、かたい声です。1ヶ月以上嗄声が持続する場合は、早急に専門医を受診することが大切です。
がんが進行すると嗄声はさらにひどくなり、声門が狭くなって息苦しいなどの呼吸困難症状があらわれてきます。同時に痰に血液が混じることもあります。
声門上がんの初発症状は、食物を飲み込んだ時の痛み、いがらっぽさ、異物感などです。また、次第に耳に放散する痛みが出現してきます。がんが進行して声帯に拡がると嗄声が出現し、さらに進行しますと声門がんと同様に呼吸困難などの症状を示します。
声門下がんの場合は、進行するまで無症状であるため、発見が遅れがちとなります。 喉頭にがんなどの所見がなく嗄声が持続する場合は、甲状腺、食道の精密検査を行うことが大切です。
声門がんは頸部のリンパ節転移が少ないのに対し、声門上がんではリンパ節転移を多く認めます。まれに頸部リンパ節のはれが初発症状で病院を受診し、声門上にがんが発見されることもあります。これは、声門がんでは自覚症状が早期より出現するため、早期に発見される場合が多いことの他に、喉頭の構造的特徴によると考えられます。
ともかく、ヘビースモーカーで、声のかすれがなかなかよくならない、あるいはだんだん悪くなってきた、という方は、一度声帯をみてもらうことをお勧めします。もちろん、喫煙者の声かすれがすべて腫瘍によるものではありませんので念のため。
声門がんの場合、初発症状は嗄声です。声門上がんや声門下がんでは初期の場合、症状が全くないことが多々あります。進行して腫瘍が増大すると呼吸困難感をきたすことがあります。

診 断

喉頭がんの診断は、耳鼻咽喉科を受診した時に行われるファイバースコープによる視診と、生検と呼ばれる病変の一部を採取して行われる組織診断により確定されます。
視診は、口腔内に喉頭鏡という小さな鏡を入れて、「えーっ」、「いーっ」などの発声をしながら喉頭内を観察し、腫瘍性病変の有無をみますが、咽頭反射が強い(舌をひっぱられるとゲェーッとなる)など所見のとりにくい方には、鼻から細いファイバースコープを挿入して観察します。
組織診断は施設により多少方法が異なりますが、咽頭、喉頭を局所麻酔剤で麻酔して咽頭反射を抑制した後、太いファイバースコープを用いて細かな部位まで観察し、次いで鉗子(かんし)により病変の一部を採取します。反射が強いかたは、全身麻酔下に生検する場合もあります。
これを病理医が顕微鏡で見て、がんかどうかの診断を行います。
病変の採取は全身麻酔下で行われることもあり、その場合には入院が必要です。組織診断は、通常1週間前後で結果が出ます。
がんの進行範囲を把握するためには、視診による直接的な観察の他に、レントゲン撮影による検査が必要となります。この検査は見えにくい部位、深部への進展の程度を判断する上で非常に有用です。頸部正面、側面撮影の他、頸部の断層撮影、CT、MRIなどの検査を行います。

検査と診断

ファイバースコープでの喉頭の観察をまず行います。
がんが疑わしい場合、早期に入院していただき、全身麻酔下で喉頭の腫瘍を切除し病理組織検査に提出します。このとき、腫瘍の拡がりを十分に確認します。
約一週間後には検査結果がでます。同時に、頸部リンパ節の有無をエコーで確認し、全身検索を行います。

病 期

声門がん
T1 T1a:声帯運動が正常で一側声帯に限局
T1b:声帯運動が正常で両側声帯に浸潤
T2 声門上部および/または声門下部に伸展するものおよび/または声帯運動の制限を伴う
T3 声帯が固定し喉頭内に限局
T4 甲状軟骨を破って浸潤するおよび/または気管、頚部軟組織、甲状腺、咽頭に浸潤
声門上がん
T1 声帯運動が正常で声門上部の一亜部位に限局
T2 喉頭の固定がなく、声門上部の他の亜部位、声門または声門上部の外側域の粘膜に浸潤
T3 声帯が固定し喉頭内に限局および/または輪状後部、喉頭蓋前方、舌根の深部のいずれかに浸潤
T4 甲状軟骨を破って浸潤するおよび/または頚部軟組織、甲状腺、食道に浸潤
声門下がん:
T1 声門下部に限局
T2 声帯に伸展始祖の運動が正常か制限されている
T3 声帯が固定し喉頭内に限局
T4 輪状軟骨か甲状軟骨を破って浸潤するおよび/または気管、頚部軟組織、甲状腺、咽頭、食道に浸潤
頸部リンパ節転移 TとNとMで病期を決定します。

治 療

治療の方針は、喉頭がんが早期のものか、或いは進行したものかのより異なります。
小さいがんは放射線治療で治癒するものが大半です。場合によっては、声帯のごく一部をレーザーにて切除するだけで、治るものもあります。
放射線治療は通常一ヵ月半程かかります。通院で治療される方も多いようです。 進展した喉頭がんの場合は治療は放射線と手術を組み合わせて行います。
手術はがんの大きさや部位によりいろいろで、場合によっては、声帯を残すような手術が可能ですが、最悪の場合、声帯を全部含めて喉頭をとる"喉頭全摘"が必要となります。
当院では、患者さんの声を重視する立場から、声を残す手術や、声帯をとった際に、それに変わる音声を出させるような手術などに積極的に取り組んでおります。また、希望によっては動注化学療法併用の放射線治療を施行する場合もあります。
同じ病期でも声門がんとそれ以外では扱いが多少異なります。

声門がん
T1 放射線治療、レーザー治療
T2 放射線化学療法
T3 放射線化学療法、または喉頭部分切除術、喉頭全摘出術
T4 喉頭全摘出術、(放射線化学療法)
声門上がん・声門下がん
T1 放射線治療
T2 放射線化学療法
T3 放射線化学療法、または喉頭全摘出術
T4 喉頭全摘出術、(放射線化学療法)

頸部リンパ節転移に関しては、手術前の頸部エコーで転移リンパ節が指摘されれば、転移のある側の頸部郭清術を行います。
原則として術前に転移を認めていない場合には予防的頸部郭清術は行っておりません。

治療による副作用

放射線治療を行った場合は、治療後に味覚障害や口腔内乾燥感をきたします。
喉頭全摘出術を行うと、声帯がなくなるため発声機能を失います。代用音声として様々なものがありますが、食道発声の獲得と電気式人工喉頭の使用もありますが、当院ではボイスボタン(グロニンゲン、プロボックス)の装着をおすすめしています。
これは、喉頭全摘してぞうせつした永久気管孔のなかに、気管と食道をつなげる穴をあけ、弁のついたボタンを埋め込むことで、声を出す方法です。
また、気管が頸部に直接つながるため、気管が乾燥しやすくなります。そのため、気管の孔を覆うようにエプロン(特製のもの)をあてたり、加湿器を使用したりしていただく必要があります。
また、力むことができなくなるため、便秘がちになりますので緩下剤を内服することもあります。

声を失うこと

喉頭がんの進行期では喉頭全摘を避けることができない場合が多いと思います。この場合、声を失うという、大きな障害を持つこととなります。患者さんには、この点が大きな問題となるかと思います。
以前より、喉頭の進行がんでも喉頭を温存する部分切除術の試みはなされてきています。技術の向上により大変うまくいく場合も多くなりましたが、術後の誤嚥の危険は程度の差こそあれ起こります。我々は、原則として、進行期であれば喉頭全摘術を標準術式としております。
原発巣の治療は、放射線療法(体外から照射する)と外科療法が2本の柱となります。
抗がん剤による化学療法は、喉頭を温存するために放射線療法、外科療法に先立って施行されるか、手術不可能な場合、再発で他に治療法のない場合などに行われてきました。
しかし、最近は従来標準治療として喉頭全摘出が行われていた症例に対しても、放射線と多剤化学療法との同時併用治療を行い、喉頭の温存をはかる治療も行われています。 中には動注化学療法を施行する場合もあります。
外科療法は、がんの原発部位の周辺だけを切除する喉頭部分切除術と、喉頭をすべて摘出する喉頭全摘出術に分けられます。多くの場合、喉頭部分切除術は早期がん(一部のT3まで)に、喉頭全摘出術は進行がんに施行されます。
放射線療法や外科療法でも治癒する可能性がある場合の治療の選択は、年齢、全身状態、職業などを考慮した上で、それぞれの治療の長所、短所を十分説明して決定します。
頸部リンパ節転移に対する治療は、一側または両側の耳後部から鎖骨までの範囲のリンパ組織を含んだ部分を切除する頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)ですが、切除不可能な場合は放射線療法を行うことがあります。

T3、T4の治療方針

一般的に喉頭温存を希望する症例は、induction chemotherapyを先行し、治療効果をみてから手術か放射線化学療法か選択する方針で治療を施行しています。
喉頭温存を強く希望するT3症例、様様な理由で喉頭部分切除術や複数回の化学療法施行に困難が予想される症例はinduction chemotherapyはせず、レーザー切除術をまず施行し、その後に放射線化学療法(T2と同様)を施行する場合もあります。
合併症などで化学療法施行困難症例、75歳以上のT4、また喉頭温存にこだわらない症例、腺がん系は即手術を選択しています。 放射線療法後の再発に対する治療は、喉頭全摘出術を施行することが最も安全な方法ですが、治療前と再発時の所見から喉頭部分切除術で制御できる場合もあります。
治療上の問題点(合併症) 放射線療法は、音声の面からもほぼもとの声に回復して、よい治療法といえますが、後年照射部位に一致して二次がんが発生する場合もあります。
喉頭部分切除では、切除範囲により嗄声の程度はまちまちですが、もとの声に近いものとなります。また、特に切除範囲が大きい時などに誤嚥(ごえん:誤って気道に飲食物が流れる)をおこし、むせて食事がしにくいことがありますが、通常は一過性のもので、食べ方を工夫することにより改善されていきます。
どうしても改善されない場合は喉頭全摘出術の適応となります。喉頭全摘出術では、もとの声が全く失われる(失声:しっせい)状態となります。もちろん、食道発声や電気喉頭の使用により、新しい音声を獲得することができます(詳しくは「発声障害(失声)」を参照して下さい)。
食事については、喉頭全摘出後でも治療前とほぼ同等の食事摂取が可能です。

治療成績・予後

がんの発生部位により治療成績は多少異なりますが、I期では放射線療法で90%以上治ります。
一般的にI~IV期全体では、60~70%の5年生存率が得られます。

(当院の治療成績)2008年6月頭頚部がん学会発表

2003年4月~2008年3月 70例(男性66例女性4例)
StageⅠ(28例)、Ⅱ(20例)、Ⅲ(8例)、Ⅳ(14例)

5年生存率

全体73.1%、StageⅣ(55.1%)
疾患特異的5年生存率は89.5%、StageⅠ・Ⅱ・Ⅲ(100%)、Ⅳ(55.1%) 3年喉頭温存率90%

2015年日本頭頸部外科学会発表

2003年4月~2014年3月 128例(男性118例女性10例)

5年生存率

全体78.5%、Ⅰ(86.9%)Ⅱ(79.3%)、Ⅲ(69.6%)、Ⅳ(63.7%)
疾患特異的5年生存率 88.7% 5年喉頭温存率 87.4%