中咽頭がん|頭頸部腫瘍(がん)

 

中咽頭がんの治療

位置と分類

中咽頭は、上方は硬口蓋と軟口蓋との移行部、下方は喉頭蓋谷底部、前方は舌後方1/3の部位を言います。口蓋扁桃も中咽頭に分類されます。
この部位にできたがんを中咽頭がんと言います。
中咽頭はさらに4つの部位の前壁型(舌根部、喉頭蓋谷)、側壁型(口蓋扁桃、口蓋弓)、後壁型、上壁型(軟口蓋、口蓋垂)に分類されます。
まず、口を大きく開けた時に見られるいわゆる「のどちんこ」と呼ばれる突起した部分(口蓋垂)と、 その上のうわあごの軟らかい部分を「軟口蓋(なんこうがい)」といいます。 ただし、うわあごの固い部分は「硬口蓋(こうこうがい)」といって中咽頭ではなく口腔の領域に含まれます。
「扁桃(腺)」も口の奥の左右にあり中咽頭の一部で、口の奥の突きあたりの壁は中咽頭の「後壁(こうへき)」と呼ばれています。
もうひとつ、舌のつけ根も「舌根(ぜっこん)」といって中咽頭に属します。ただし、口の中に見える舌の前方の大部分は、 なめらかによく動くため「舌可動部(ぜつかどうぶ)」あるいは「口部舌(こうぶぜつ)」と呼ばれ、口腔に属します。

機 能

中咽頭は、食物や空気の通路ですが、 食物を飲み込む嚥下(えんげ)や言葉を話す構音(こうおん)をうまく行うための重要な働きをしています。
がんができた場合や、外科療法を行った後に生じる症状を理解するために、 中咽頭のそれぞれの部位の役割をもう少し詳しく説明します。
軟口蓋は、鼻と口との間を開けたり閉じたりする扉の役割をもっています。 この軟口蓋がなくなると、食べたものが鼻に流れ込んだり、 話をする時に息が鼻に抜けて言葉がわかりづらくなります。 これを開鼻声(かいびせい)といいます。
扁桃は、幼児期には外界から進入する細菌などに対する免疫防御器官としての大切な役割をもっていますが、 成人では食物、空気の通路としての役割しか果たしていません。 ただし、リンパ組織に富んでおり悪性リンパ腫の好発部位となります。
後壁は咽頭と頸椎の間をさえぎる壁ですが、食物や空気の通路としての役割しかありません。
舌根は重要な役割をもっています。食べた物を飲み込む時にこの舌根が奥に動いて食物を食道に送り込みます。 同時に誤嚥(ごえん:食物が喉頭から気管に入ってむせること)がないよう、この舌根が喉頭の上を塞ぎます。 この働きがうまくいかないと、誤嚥のため口から食事ができなくなります。

頻度と発症原因

頭頸部自体、がんの発生頻度は少なくがん全体の約5%といわれています。 この領域にできたがんを頭頸部がんといいます。
中咽頭がんはその中に含まれますが、 その頻度はさらに少なく、頭頸部がんの約10%にすぎません。 中咽頭には、扁平上皮がんの他に悪性リンパ腫、腺がんなどがみられますが、 最も多い扁平上皮がんについて話を進めます。
わが国では、年間1,000~2,000人程度に発症する比較的まれながんといえます。 ただし、地域的には九州、沖縄など南の地域に多く発症する傾向にあり、強い酒などが原因ではないかといわれています。
また、世界的にはインド、東南アジア、フランス、イタリア、ロシアなどに多く発生する傾向にあり、 やはり強い酒や、インドのかみたばこをたしなむ風習、口腔内不衛生などが、中咽頭がん発症の誘因のひとつではないかと考えられています。
男女比では他の頭頸部がんと同様に圧倒的に男性に多く、好発年齢は50~60歳代で、比較的若い人にもみられます。 このように中咽頭がんの発症状況から、酒とたばこが大きな要因と考えられています。 さらに頭頸部の他の領域、すなわち口腔、下咽頭、喉頭などに発生するがんも同様で、 長期の飲酒歴や喫煙歴のある人は頭頸部がんに注意する必要があります。

症 状

中咽頭がんの初期症状は、食物を飲み込むときの異和感、しみる感じなどです。 やがてのどの痛みや飲み込みにくさ、しゃべりにくさなどが少しずつ強くなり、 さらに進行すると耐えられない痛み、出血、開口障害、嚥下障害、呼吸困難など生命に危険をおよぼす症状が出現してきます。
ときには、もとのがんそのものによる症状がほとんどなく、 頸部へ転移したリンパ節のはれだけが唯一の初発症状となることもあり、注意が必要です。いわゆる原発不明頚部がんと思われるもののなかにも、よく検査すると中咽頭などに数mm程度の小さいがんが見つかることがあります。
とくに舌根部はわかりにくく、ブラインドバイオプシーといって、怪しい部分を盲目的に多数箇所、全麻下に生検してはじめて診断がつく場合もあります。
中咽頭は口を開けて見えるところが多いのですが、舌根は直接見えない場所で指でも触れにくい場所です。 そのため舌根がんを早期発見するためには、他の頭頸部がんにも共通することですが、 食べ物を飲み込む時に違和感やしみる感じがある場合に、早めに耳鼻咽喉科もしくは頭頸科を受診して、 のどの奥を診てもらうことが大切です。 ただし、のどは非常に敏感な場所ですから、異常がなくても違和感を感じることがよくあります。 診察で異常がないといわれたら、あまり神経質にならないほうがよいでしょう。
また、頸部のリンパ節がはれてきた場合、がん(特に頭頸部がん)の転移の可能性もありますので、 中咽頭がんをはじめとする頭頸部がんができていないかどうか、耳鼻咽喉科(頭頸科)で精査してもらうことも大切です。

診 断

口腔内からの視・触診、ファイバースコープなどによる詳細な観察が重要です。異常所見があれば生検を行います。
病変の拡がりを捉えるには、CTやMRIが有用です。
リンパ節転移の有無は超音波ガイド下細胞診にて行います。

病 期

原発巣の進行度は'T'で示します。

T1 最大径が2cm以下のもの
T2 最大径が2cmをこえ4cm以下のもの
T3 最大径が4cmをこえるもの
T4 がんが隣接組織に浸潤したもの

治 療

解剖学的に中咽頭は、嚥下(飲み込み)、構音に関わった位置です。従って、そのような機能に配慮した治療が必要となります。
しかし、進行がんの場合は、機能を犠牲にした治療を選択せざるを得ない場合もあります。
進行がんの治療成績は良好とはいえないため、治療計画は難しいものとなります。

当院での病期別の大まかな治療方針は下記の通りです。

T1、2 放射線化学療法CRT(+頚部郭清術)
T3、4 NAC → NCは拡大手術(+再建)
→ PR、CRは、まずCRT施行し、残存すればサルベージ手術 
→ 手術拒否例もCRT

*2006年より舌根の亜全摘以上が必要となる症例の手術拒否例には、可能であれば動注CRTを施行しています。

外科療法

病気の部位、進行度合いにより手術法が異なります。小さな腫瘍の場合、 切除後に直接傷を縫い合わせて閉じることができますが、大きな腫瘍の場合、 切除後の大きな欠損部に他の場所から採取した皮膚や筋肉を移植して閉じる必要があります。 この際、術後の咽頭の機能低下を防ぎ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を向上させるために、 さまざまな再建外科の技術が駆使されます。
軟口蓋の切除後には、声が鼻に抜けて不明瞭な言葉にならないよう、また食物が鼻に逆流しないよう鼻と口を境する組織を移植します。
舌根部の広範な切除後はひどい誤嚥をおこすため、時には喉頭を同時に切除する必要があります。 しかし、最近では舌根部に対する再建手術の工夫により、 喉頭を温存(おんぞん:切除しないで残すこと)できる場合が多くなってきました。
一方、中咽頭がんは高い頻度で頸部のリンパ節に転移します。 そのため、ある程度進行した場合は、中咽頭のがんとともに頸部のリンパ節を切除します(頸部郭清術:けいぶかくせいじゅつ)。 元来、この外科療法は、リンパ組織と同時に頸部の大きな血管・筋肉、肩を動かす神経を切除するため、 手術後顔のむくみ、頸部の変形・こわばり、肩の運動障害などの後遺症が出現していました(根治的頸部郭清術)。 最近では術後のQOLを向上させるため、 これらの組織を可能な限り温存する外科療法が工夫されるようになってきています(機能的頸部郭清術)。
なお、腺がんは外科療法の対象となります。

放射線療法

放射線単独で治療する場合は、Ⅰ、Ⅱ期といった比較的早期のがんが対象となります。
治癒する確率は外科療法とほぼ同様です。がんの治癒が期待できる治療法で、外科療法とは違い、形態が温存でき機能障害も少ないので、治療後も治療前と同じような生活をしていくことができます。
外照射で治療する場合は、6~7週の治療期間が必要です。治療中は人によって程度は異なりますが、咽頭の粘膜炎、味覚の変化、唾液分泌低下による口の乾きなどの症状が出ますが、通院での治療が十分に可能です。 唾液分泌低下は長期間続くことがあります。最近の放射線治療の進歩でどちらか片方の耳下腺には放射線を照射しなくても、がん組織には十分量の放射線照射ができるようになり、従来よりは強い口の乾きはおこさずに治療ができるようになってきています。 がんの大きさ、部位によっては密封小線源治療で治療することもあります(当院にはありません)。 外照射と比べると周囲の正常組織には少ない量の放射線しか照射されませんので、 粘膜炎の範囲も小さく、味覚異常、唾液分泌低下に伴う口内の乾燥も少ない治療です。 放射線治療中に喫煙を続けていた人の治癒率は、喫煙していない人と比べ低いといわれているので、 放射線治療開始前までには喫煙の習慣をやめることが大切です。
III、IV期のがんは、放射線単独の治療で治癒する確率は低く、従来から外科療法が治療の主体です。 放射線治療はがんを小さくし、手術をしやすくするために手術の前に行われたり、 手術をしてもきちんととりきれないでがんが残存していることが疑われた場合などに行われたりします。
外科療法ができないほど進行している場合は、放射線治療が主体で行われています。 治癒の可能性は少ないですが、がんによる痛み、出血、嚥下障害などの症状を和らげることができます。 まだ研究段階ですが、放射線と抗がん剤を合わせた治療も試みられています。 この治療法は、進行はしているけれど外科療法が行える状態のがんにも、 形態および機能の温存を目的に試みられています。

抗がん剤による化学療法

通常の中咽頭がんに対しては、化学療法のみ単独で行われることはほとんどありませんが、 外科療法や放射線療法と組み合わせる(同時併用する)ことによって、治癒率の向上をめざすさまざまな試みがなされています。

治療成績

中咽頭がんの予後については、部位やがんの種類によって異なりますが、 おおよそI、Ⅱ期では80~90程度、III期で60%、IV期で40%弱という5年生存率が得られています。 早期にきちんと治療を行えば比較的治りやすいがんといえます。 ただし注意点として、中咽頭がんの特徴に重複がんの発生率が20~30%と非常に高いことがあげられます。 つまり、他の領域にもがんが生じやすいということです。 中咽頭以外に出現しやすい場所としては、他の頭頸部領域、食道、胃などです。当院でも、初診時に消化器内科で胃カメラをうけていただいています。 治療後にはそれまでの悪習慣(大量の飲酒、喫煙)を断ち切り、バランスのとれた栄養摂取を心がけるとともに、 積極的にがん検診を受けて第2、第3のがんの発生を予防し、また早期発見につとめることが大切です。

(がん研病院頭頸科の成績)―ホームページより

5年生存率は、StageⅠ・Ⅱ:70%、StageⅢ66%、StageⅣ:33%で、全体では 51%であった。
がん以外の死亡原因を省いて計算すると、StageⅠ・Ⅱ:83%、StageⅢ:81%、StageⅣ:41%で、全体では61%

(当院の治療成績)2009年6月頭頚部がん学会にて発表

2003年4月~2009年3月 49例(男性44例、女性5例) 
StageⅠ(2例)、Ⅱ(4例)、Ⅲ(6例)、Ⅳ(37例) StageⅢ以上の進行がんで87.8%

5年生存率

全体52.0%、StageⅠ(100%)、Ⅱ(100%)、Ⅲ(66.7%)、Ⅳ(38.2%)

根治例(治療がきちんと施行できた症例)に限定した5年生存率

全体62.8%、StageⅠ(100%)、Ⅱ(100%)、Ⅲ(80%)、Ⅳ(47.2%)