下咽頭がん|頭頸部腫瘍(がん)

 

下咽頭がんの治療

概 説

下咽頭は、上方は喉頭蓋谷底部の高さ、下方は輪状軟骨下縁までの高さまでの範囲です。前方には喉頭が位置します。下咽頭の下には食道が続きます。この部位にできたがんを下咽頭がんと言います。梨状陥凹型(食道入口部)、後壁型、輪状後部型(のど仏の裏)の3つの亜部位に分類されます。早期の腫瘍については放射線治療のみで治癒するものもありますが、治療の中心は手術療法です。切除範囲が大きくなる場合には再建手術が必要になります。手術前や後に放射線治療を併用することもあります。最近では、放射線化学療法や動注化学療法にて喉頭温存率がよくなってはきていますが、局所進行がんの場合は、まだ手術治療の方が生存率が良いと考えられています。

症 状

初期には症状はほとんどありませんが、のどの異物感や、つばを飲み込む時のひっかかり感がある場合は、念のため耳鼻咽喉科を受診するようお勧めします。しかし下咽頭は、輪状軟骨(のどぼとけの下の軟骨)に押され、また、食道入口部はいつも輪状咽頭筋という筋肉によって締め付けられていますので、観察しにくい場所です。従って、早期に発見されることは稀で、たいていは進行してから発見されます。一度耳鼻咽喉科で大丈夫といわれても、前述の症状が1、2ヶ月も続くなら、もう一度診察を受けた方がよいでしょう。進行すると、嗄声や、飲み込みの障害や、場合によっては呼吸困難をきたすこともあります。頸部リンパ節転移が初発症状となることもあります。

診 断

喉頭ファイバースコープによる詳細な観察が必要です。しかし、前述のように下咽頭は観察しにくい場所です。怪しい場合には、下咽頭食道造影検査で粘膜のみだれがないかチェックしたり、全身麻酔をかけて下咽頭を直視下で観察(下咽頭鏡検査といいます)することもあります。仮に、下咽頭がんとわかっていても、その拡がりを確認するのにも下咽頭鏡検査は有用です。他に、頸部CTやMRI、超音波ガイド下細胞診も必要です。

その他の検査

診断のために必要な検査以外に、重複がんのチェックのため食道・胃カメラ検査や、根治手術の目的で胸部・腹部CTや胃・食道透視検査も必要となります。

病 期

原発巣の進行度は'T'で示します。
T1:下咽頭の1亜部位に限局した、最大径が2cm以下のもの
T2:一側声帯の固定がないもので、下咽頭の1亜部位をこえるか隣接部位に浸潤したもの、または最大径が2cmをこえ4cm以下のもの
T3:最大径が4cmをこえるもの、または一側声帯の固定があるもの
T4:甲状軟骨、輪状軟骨、頸動脈、頸部軟部組織、椎前筋膜、椎前筋、甲状腺、食道などの隣接組織に浸潤したもの

治 療

下咽頭は、のど仏の裏にある、食道の入り口です。飲み込みに大きく関わるだけでなく、間接的には発声や呼吸にも関わる位置です。このような機能に配慮した治療を考えたいのですが、下咽頭がんの悪性度の高さを考えると、現在のところ根治治療を行う場合は、何らかの機能の犠牲を伴う治療が主体となります。病期が進行していない場合の部分切除に関して、今後は検討していく必要があると考えていますが、適応は限局した病期に限定すべきだと考えています。また、下咽頭がんに、食道がんが合併する頻度は30%と高く、根治治療を計画するにあたって、食道がんの有無は重要です。現在の当院での病期別の大まかな治療方針は下記の通りです。
T1-2:放射線化学療法(+頸部郭清術)
T3-4:導入化学療法、咽頭喉頭頸部食道摘出+両側頸部郭清術、術後放射線治療
もしくは導入化学療法にてCR(ほとんど原発のがんがなくなる状態)に近く効けば、放射線化学療法にて原発を根治し、その後必要があれば頸部郭清術を施行。
咽頭、頸部食道の再建は、食道がんがなければ空腸(遊離空腸再建)を、食道がんがあれば胃を管状にして吊り上げる(胃管挙上再建)を基本としています。

治療後の後遺症

1)音声の喪失 喉頭がんの項を参照してください。喉頭がんと異なり、食道発声の獲得は約半分程度です。
2)嚥下障害 本来蠕動運動(食物を喉から胃へ送り込む動き)のある食道がなくなるわけですから、
程度の差はありますが、飲み込みの障害は起こります。
当院での経験では、だいたい粥状のものは摂取されているようです。

予 後

下咽頭がんは頭頸部がんの中で最も治りにくいがんのひとつです。
治療成績は一般的に5年生存率(全体の何%が治療後5年間生きているか;一般的な5年生存率は死因を問いません。)であらわします。
外科療法を中心に治療を受けた方の5年生存率は全体で40%弱です。
I期で約70%、2期3期で40~50%、IV期で30%弱です。放射線単独治療の5年生存率は、I・Ⅱ期の早期がんで40~60%です。

(当院の治療成績)2009年6月頭頚部がん学会発表

2003年4月~2009年3月 42例 
StageⅠ(1例)、Ⅱ(6例)、Ⅲ(7例)、Ⅳ(28例)

5年生存率

全体55.2%(3生率60.7%)、StageⅠ(100%)、Ⅱ(75%)、Ⅲ(72%)、Ⅳ(40.8%) 喉頭温存率83%

2014年頭頸部癌学会発表

2003年4月〜2014年3月 76例(男性67例 女性9例)
StageⅠ3例、Ⅱ10例、Ⅲ10例、Ⅳ53例
5年生存率 52.3%
5年疾患特異的生存率 67%
5年喉頭温存率 50.1%